いつかパラソルの下で

 児童文学には並々ならぬ思い入れがある。一時期付き合ったことのあるパートナーが児童文学を書いており、その下読みをさせられていたからだ。わたしは消極的な人間なので自分から動くことは滅多にないのだが、他人に引き込まれるとずるずるその道に入っていくことが多い。そうして引き込まれたことのひとつが児童文学だった。森絵都を読んだのもそのパートナーと付き合っていたころだ。あまりのうまさに舌を巻いた。それまで児童文学など子供の読み物と侮っていたのだがそこは実に豊穣な海であった。

したがって今回の書評はいささか微妙なものがある。

いつかパラソルの下で

いつかパラソルの下で

 一般文芸での作品数は決して多くないものの、児童文学を含めればすでに数十冊の著作を重ねたベテランである。凡百の一般作家とはそもそも比べ物にならないほどのタマなのだ。ゆえにそうとうの期待を持って読み始めたのだが、最初は「こんなはずでは」という思いを振り払うことができなかった。もっとできるだろう、森絵都。こんなもんじゃないだろう。これでは凡百の一般作家以下ではないか。しかし結果から言うと期待は裏切られなかった。


 厳格だった父が死んだあと、その父に愛人がいたことが発覚する。そして父が遺した「暗い血」という言葉。仲のよくない三人兄妹はその謎を探るために父の故郷である佐渡を訪ねる。その旅の中、兄妹は父とともに自らのことを知っていくようになる。


 旅によってそれぞれの不仲やトラウマが氷解していくというありふれた物語なのだが、旅に入ってからの展開はさすが森絵都といううまさ。特に父の抱えていたトラウマが実はただの思い込みに過ぎず、「なあんだ」となったあとの飲み会からは、森節全開で楽しいこと楽しいこと。最後はいささかやりすぎのハッピーエンドではあるけれど、それでもいいかという気がしてしまうくらい堪能しました。こういう部分はさすがにうまい。これで前半部分がよければためらわずに傑作と呼べるのだが。

評価 65点 後半だけなら85点。前半の不出来でマイナス20点。