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久しぶりの仕事でリズムに乗れなくて困っている。上司や同僚もそうらしくて、狭い仕事場はだらっとした雰囲気。気がつくと、全員参加の雑談で盛り上がっている。ふと上司が立場を思い出したように、仕事仕事とつぶやくので、それが少しおかしい。


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この人の他の作品に保坂和志推薦の文字があったので読んでみた。若者の感情や短いふれあいを描いており、明確なストーリーはない。その一瞬の流れを描いただけ。その意味において、保坂氏がこの話を推すのはわかる。ただ、なにか足りない。ひとつには文章の精度。艶もないかな。でも寂しさはある。全体として、面白くなりそうなのに、その一歩手前で踏みとどまってしまっている感じ。好きなタイプの作家だけれど、あと少し先に行けないだろうか。今度最新作のフルタイムライフを読んでみよう。それ次第で、この先買いつづけるかどうか決めようと思う。

評価 50点 


プレーンソング (中公文庫)

プレーンソング (中公文庫)

その保坂氏の、おそらく代表作。芥川賞受賞作の「この人の閾」よりも、わたしこちらのほうがはるかにいいと思う。柴崎氏と同様に明確なストーリーはなく、練馬で集団生活を送る若者の日々がただ描かれるだけ。トリックスターのアキラ、その彼女で猫を愛する洋子ちゃん、作家を目指す島田、部屋の主である「僕」、そして保坂氏が自らをモデルにしたというゴンタ、彼らが紡ぎだす日常は、しかし柴崎氏と違って、明確な線を有している。物語を描かないようでいて、実はしっかり描いている。最後の十数ページを読めば明白なことだが、保坂氏はその気になれば重松清並みの人情物だって書けるのだろう。それだけの力を持った上で、あえてこういう話を書いているところに、保坂氏のうまさを感じる。

評価 90点 とにかくすばらしい。