Teen age

 仕事柄、小説家と呼ばれる方の文章を拝読することがたまにあります。わたしが主に手がけているのは企業広報誌の編集や校正で、ああいう小冊子にはおそらくあまり知られていないと思いますが小説家が寄稿しているケースが多いのです。たいていは何らかの文学賞を取った方、つまり企業が利用価値を感じるステータスを背負った方が多い。芥川賞直木賞受賞者が圧倒的に多く(三島賞あたりではステータスになりません)、なかにはもう小説はほとんど書かないで、そういう雑文だけで稼いでらっしゃる方もいます。特に芥川賞関係に多いですね。小説家、しかも有名文学賞受賞者なんだから、さぞかし素晴らしい文章を書くのだろう・・と思うかもしれませんが、これが意外とそうでもない。唖然とする文章を書いてくる方がけっこういます。助詞の間違いや慣用句の誤用くらいなら可愛いものですが、文章がまったく日本語になってないケースなどを目の当たりにするとこちらとしてはすごく困ってしまう。なにしろ相手は「先生」ですから率直に指摘するわけにもいかず、結果そのままおかしな日本語を載せてしまうわけです。やってられません。しかもそのくせ伝え聞く原稿料はとんでもなく高かったりする。

 この仕事についてつくづく思い知ったのは、プロ作家だから、有名文学賞受賞者だから、ベテランだから立派かといえば全然そうではないということですね。特に純文学系の方はその経歴と実力がまったく一致してないことが少なくない。

 今回紹介する本でもそのことを再確認しました。

Teen Age

Teen Age

 七人の女性作家による十代をテーマとしたアンソロジー。出版が去年末で現在三刷くらい行ってるはずです。悪くない売り上げなのでしょう。さすがにうまいなと感心させられたのは角田光代。明らかに手を抜いていて八割くらいの力で書いているのですが、それでもお話になっています。最近話題の瀬尾まいこも、話題になるだけはあります。作品の出来としてはこのアンソロジーの中で一番でしょう。ちゃんと話になってますからね。ただ田舎暮らしをするために都会からやってきた家族の描き方がいささか類型的で、この点はあまりよろしくないと思います。瀬尾まいこは設定などは独創性があるのですが、こういうディテール部分はしばしば類型に流れることが多いですね。それから島本理生も悪くない。一番十代に近い作家なので、そういう感覚がよく出ています。しかしながら、この人の恋愛描写はどうにもべたべたしててわたしは苦手です。彼女は恋愛にいろいろなものをおそらく望みすぎている。むしろ家族を描いたリトル・バイ・リトルなどは感心したのですが。あと、この人の日本語はしばしば必要な精度を失う。仕事感覚で赤を入れてみたところ真っ赤になりました。これを通す編集者はなにを考えているのか。それとも編集者にもこの程度の文章校正能力しかないのか。川上弘美は判断するには短すぎますね。さて、藤野千代、椰月美智子、野中ともそは、困ってしまいました。野中以外はお話になっていないし、どうしようもなく感覚が古い。赤を入れたくなるような表現の連続で困ることも多かった。物語で引っ張っているならともかく、雰囲気で引っ張るタイプのスタイルでその雰囲気が古いとなにを頼りに読み進めていいのかわからなくなりますね。野中は話になっていたもののまるでワタセセイゾウの漫画を読んでいるようで、この時代に八十年代の感覚を持ってこられるとどうにも辛い。
 こういったアンソロジーは作家がそのモチベーションを保つのが難しいのですが、そういう悪い面が出てしまっているかもしれません。あくまでも作家の見本市として考えるなら読む価値はそこそこありそうですが。

評価 35点 よほど暇ならよろしいかもしれません。