黄色い目の魚

『猫泥棒と木曜日のキッチン』と読み比べるために佐藤多佳子の『黄色い目の魚』を引っ張り出してきた。山本周五郎賞の候補にもなったはずだ。佐藤さんは『しゃべれどもしゃべれども』が本の雑誌の年間ベスト作品に輝いたこともある俊英。

黄色い目の魚

黄色い目の魚

 きれいな表紙に惚れ惚れする。何度見てもいい。これも青春小説で、男の子と女の子の一人称が交互に書かれている。安定した筆力は見事だ。少年少女の心の機微を描くのも抜群にうまい。最後のほうはちょっとやりすぎかとも思うが、これくらいベタな展開のほうがいいのかもしれない。

 同じように子供を描いていても、橋本紡さんと佐藤多佳子さんはかなりベクトルが違う。橋本さんの作品は読んだ後考えさせられる。文章がうまいので軽く読めてしまうが実はいろいろなことを投げかけている作品だ。佐藤さんの本を読んで改めてそのことを感じた。

 評価 70点 二度読むに足る本でした。表紙が本当にきれい。



ガールズ・ブルー (teens’ best selections)

ガールズ・ブルー (teens’ best selections)

 バッテリーで一気にブレイクした感のあるあさのあつこさんの作品。刊行が2003年なので、ブレイク前の話だろうか。地方都市の底辺校に通う女の子が主人公で、その一人称で描かれている。退屈で物足りないそれでも大切な時間。
 やはりあさのあつこはうまい。簡潔な描写が物足りないのは児童文学だからしかたないが、それでもうまいと感じさせる筆力がある。人物の配置も巧みだ。子供の嫌な面もちゃんと書いている。ただ書きすぎていて、それがむしろ説教くさくなっているのはどうかと思うが。
 読みながら吉田修一の「water」という作品を思い出していた。あれも青春小説だが、そこに説教くささは微塵もなかった。わたしは児童文学を大切に思っている。しかしこういう時に限界を感じる。
 それでもこの本がいい本であることに変わりはない。ちゃんとした作家が書いたちゃんとした話であると思う。

 評価 70点 わたしの好みではないけれど、いい本です。