雪沼とその周辺
二日前に買った三冊を一気に読んでしまった。いや違う。読まされてしまったのだ。最後の一冊である橋本紡の『猫泥棒と木曜日のキッチン』はゆっくり読もうと思っていたのに一ページ目からいきなり引き込まれ、気がつくと山手線の車内で読み終えてしまっていた。途中で降りるはずの駅をすぎてしまったことに気づいたが、ええいかまうものか一周してやれという気持ちになってそのまま本を読み続けた。ページから目を離すのが惜しかったからだ。読み終わった直後、顔を上げるとそこにはありふれた町並みが広がっていた。町並みのどこかに猫泥棒の少女と少年がいるような気がした。きっと幸せな食卓を囲んでいるに違いない。その瞬間、わたしも同じ食卓についているような気がした。山手線の座席ではなくて、そこにいたかった。すばらしい本に出会った興奮と読み終えてしまった寂しさの間に置かれたわたしはしばらく呆然としていた。今晩もう一度読み返してからこの本の書評を書こうと思う。
ブログはわたし自身の覚書でもあるので『猫泥棒と木曜日のキッチン』にとりかかる前の手慣らしとして他の小説を取り上げておく。
- 作者: 堀江敏幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/11
- メディア: 単行本
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登場人物はみな平凡で格別なドラマはなにも起こらない。一話につき一人の人物を取り上げるという構成になっているが、どの話も文章の八割は人物の特徴や人生の歩みを描くばかりで逸話と言える部分は残りの二割ほどしかない。物語というより人物紹介の特徴が強い。こういう書き方をするとしばしばただの独善と自己吐露に陥りそうなものだが作者はその辺をたくみにコントロールしており、読後は不思議な寂しさや優しさに包まれる。まったくよい話であると思う。
評価 75点 何の文句もない。過もない。不足もない。
- 作者: リリー・フランキー
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2005/06/28
- メディア: 単行本
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65点 雪沼のほうが好みだが、これはこれで悪くない。自伝らしい強さがある。